3/18(火)
やりはなぜ上から投げるのかを考えてみる。
まずは解剖学的見地から。
腕を頭上に差し上げる時、上腕を肩関節の最大可動範囲で動かしてもスリークォーターの位置までしか上がらない。
そこで肩甲骨を反時計回り(右利き)にスライドさせて、ようやく真上に差し上げられる。この感じは脱力して鉄棒にぶら下がると実感できる。
肩甲骨周りが固かったり、テニスのサーブみたいにかなり真上に差し上げたいなら、脊椎を左(右利き)に曲げることになる。この時おそらく頭の重さを使う。
これほどまでしないと、腕は上に持ってこれない。
ただ、肩甲骨をスライドさせる動きが、逆にその後の腕を振り下ろす動作のネックになる。
正面を向いた状態で差し上げた腕を真下に振り下ろすとき、腕の動作に肩甲骨周りが関与する感じが少なくなる。
つまり、純粋に肩周り前面と腕だけの力の入れ具合になる。
体に巻きつけるように腕を大きく使いたいなら、少し斜めに振り下ろす。肩甲骨を前にスライドさせる。
そのためには肩甲骨を極端に上にスライドさせてはいけない。前に行かない.
こうして考えると、腕を目いっぱい振り回せるのは、実は円盤投げのような軌道だということになる。
じゃあ円盤投げのようにやり投げもすればいいのか。そう簡単にはいかない。
円盤のノーターンはどんな感じか。どこから力を入れるか。
肩が入った状態でボディターンして、伸長収縮反射で振り切る。
これをやりですると、肩を入れたまま開くまで腕を残して、身体が正面を向いた時点で腕を振る。力の流れは直線でないのに、それを無理に直線に変換する。
腕は目いっぱい振れているように見えるが、実は最後だけである。直線への変換がさらにその点を助長する。
やりを構えてからトップに持ってくるまでが、ただ流れているだけのもったいない局面になる危険性が高い。
では上から投げるメリットは何か。
おそらく、振り切りがしにくい分、やりを構えてからトップに持ってくるまでに最大のスピードと力を加える必要があって、それが意外に重いやりを投 げるのに適しているのだと考えられる。
この局面の体の使い方は、実質全身の並進運動である。直線への変換はやりやすい。
ただ、ゆえに投げの後半=振り切りの局面が、ただ流れていくだけのものになりやすいのも事実である。
対処法としては、ぎりぎりまで開かない=トップに持ってくる局面自体をできるだけ後に残す。
そして、正面を向いた局面で止まらない=右肩を前に突き出すようにする。
2番目は、ここまでしてまで振り切りを強調する必要があるのか、と言われなくもない。
やりは武器として直線的に正確に飛ばすことが優先されたため、必ずしも動きやすいとは言えない上からの投げを採用している。
そのため、構えてからトップに持っていくまで、右足接地から左足接地までに最大のスピード、力を発揮しておく努力をするのが必須である。
ただし、左足接地から更に加わるスピード、力を有効利用するためには、投げの後半にかなりの工夫を加えないといけない。
これは言い替えると、構えてからトップに持っていくまでをそこそこ極めるだけで、まあまあいいところまで行くことを意味する。
小瀬談